下処理帳 — 苦味を引く側。この帳面は苦味だけを見る

夏みかんの下処理帳

夏みかん(図鑑の項目)の下処理を方法ごとに並べ、苦味が動いたかどうかを根拠つきで判定します。 アク・えぐみ・渋味は別の目的として注記し、毒性や安全のための理由は書きません。

このページの内容(5 節)
  1. 判定の一覧(4)
  2. 読み比べて分かったこと
  3. 減る(3)
  4. 言い伝え(未検証)(1)
  5. 関連
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判定の一覧

方法判定
酵素減る
酵素減る
ワタ・種・皮・筋を除く減る
水さらし未検証

読み比べて分かったこと

夏みかんは、四つの行のうち三つに、人が苦さを評価した実測がそろっている食材です。果汁へのナリンギナーゼ(1962年)、缶詰へのナリンギナーゼ(1965年)、薄皮を除いた凍結果肉(1976年)の三つは、呈味試験・順位法・対比較で苦さそのものを比べています。一方、皮の水さらしはナリンギンの量だけを測った行で、2〜3時間で外果皮から約80〜85%、内白部とひょうのうから約60〜70%が溶け出しましたが、苦さの強さは測られていません。

成分の量と味が並ばない所もあります。同じ諸星らの試作では、湯煮と水さらしの組合せを変えたマーマレード7種と市販品2種を20名が比べても、苦さの項目に大きな差はなく、ナリンギン量も試作品で60〜75 mg%、市販品で75・76 mg%と開いていませんでした。苦さの評点の向きが原典に書かれず検定もないため、水さらしの長さが苦さを左右しないとまでは読めません。缶詰の順位法でも、酵素を加えた区が同じ脱皮法の無添加区より常に有意に苦味が少なかったわけではなく、著者は酸味が苦味の判定を左右した可能性を挙げています。

部位でも差が出ます。薄皮を付けたまま凍結した果肉は、除いたものより対比較14回すべてで苦いと判断されましたが、除いても「なおかなりの苦味」が残りました。これは凍結した果肉での結果で、評点は比べた相手で動くと著者が注記しています。読み比べて言えるのは、酵素と薄皮の除去には人が感じる苦さが下がった実測があり、水さらしは成分が減ることまでしか確かめられていないこと、そして酸味など苦味以外の味が判定に混ざりうること、というところまでです。

この節の根拠(4)
  1. ナリンギン分解酵素による夏ミカン果汁の苦味除去 — 中林敏郎 / 1962 / 全文確認
    この節で確認した範囲: 果汁の酵素処理で呈味試験により苦味の消失を確かめたこと
  2. ナリンギナーゼによる夏ミカンシラップ漬け罐詰の苦味除去 — 津坂辰男 / 1965 / 全文確認
    この節で確認した範囲: 缶詰の酵素処理を順位法で苦味として評価したこと/酵素区と無添加区で有意にならない組合せと、酸味の影響の確認
  3. ナツミカン果実の凍結による苦味の増大について — 岩田隆; 緒方邦安 / 1976 / 全文確認
    この節で確認した範囲: 薄皮の有無を対比較の官能検査で比べたこと/薄皮の有無の対比較の回数と、除いても苦味が残ったこと
  4. マーマレード作製中のナリンギン量の変化について — 諸星俊雄; 菅原龍幸 / 1971 / 全文確認
    この節で確認した範囲: 水さらしで溶け出したナリンギンの割合と、官能評価が無いこと/マーマレードの苦さの評点に大差がないこと・評点の向きと検定が無いこと/水さらしの行が成分量の測定にとどまることの確認

減る

酵素減る食品

条件: ナリンギナーゼ添加。pH・温度・グルコース濃度から使用活性を予測する計算式を作成し、果汁1トンあたり50〜100万単位の添加が有効量と示された。

ナリンギナーゼを加えると、工場実地試験の呈味試験でも苦味の消失が確認された。狙う相手: ナリンギン

夏みかんの知覚苦味を抑えるもの: ナリンギナーゼ(ナリンギン分解酵素)の添加処理。pH・温度・グルコース濃度から使用活性を予測する計算式が作成され、果汁1トンあたり50~100万単位の添加が実測値と計算値の一致する有効量とされた。支持あり

範囲: 夏ミカン一次・二番果汁を用いた酵素処理実験と呈味試験(工場実地試験を含む)

注記: 呈味試験(官能)で苦味消失時間を実測しており、化学分析だけでなく官能に届いた資料。反応時間が長すぎると変色・香気劣化・パルプ分離が生じる点も報告されている。

pH・温度・グルコース濃度の影響を実験的に定式化し、果汁の苦味消失に要する時間を予測する計算式を作成。工場実地試験でも呈味試験により苦味消失を確認した。果汁1トンあたり50~100万単位の添加が最も有効だった。
限界: 反応時間が長すぎると変色・香気劣化・パルプ分離が生じるとされ、酵素量と反応時間の両立しにくい関係が残る。
出典: ナリンギン分解酵素による夏ミカン果汁の苦味除去(中林敏郎, 1962)・全文確認
データを表示ingredient-natsumikan —has_perceived_bitterness_suppressed_by→ (上の主張の文)
claim: clm-w40b-natsumikan-naringinase-debitter / type: processing / 更新: 2026-09-02

酵素減る食品

条件: シロップ漬け缶詰にナリンギナーゼを加える(添加法)。7名の順位法。

ナリンギナーゼを加えた缶詰は、一部の組合せで無添加より苦味が有意に少なかった。同じ条件どうしの比較では差が有意にならない組合せもあった。狙う相手: ナリンギン

夏みかんの知覚苦味を抑えるもの: 柑橘ジュースのナリンギナーゼ酵素脱苦味支持あり

範囲: 夏みかんの缶詰8試料(実験3、製造3カ月後)。通常の脱皮と冷酸脱皮、三共ナリンギナーゼとクミタナーゼ、添加法と浸漬法の組合せ。7名の判定人が苦味の順位をつけ、順位を正規数に変換して分散分析(ブロック数14、反復7)

注記: 有意だった組合せは、本文の記述(B-D・C-Dが1%、A-B・B-E・C-E・D-G・D-Hが5%)と、表8の調整した平均の値から確かめた(5%の最小有意差0.78、1%は1.10)。同じ脱皮法・同じ酵素の無添加区との差(C対A、E対D、F対D、H対G)は有意でない。調整した平均(+が苦い)はA 0.29・B −0.55・C −0.40・D 0.71・E 0.38・F −0.04・G −0.13・H −0.28。E・FがG・Hより苦いと判定されたことについて、著者はG・Hの方が酸が減っているので、判定人が苦味を酸味でごまかされたと思われるとする。著者の要約は「酵素による脱苦味効果が認められる」と一般化している。実験1・2の味見では、添加区は無添加区より苦味が少なく、実験1の2B・2C・3B・3Cはほとんど苦味が感じられなかったとされるが、これは人数・方法の記載のない味見の記述である。

本文は、不完備型順位法(試料8、ブロック数4、反復7、ブロック数14)により判定人7名に苦味の順位をつけさせ、順位を正規数に変換して分散分析を行った結果、B-D間とC-D間は1%、A-B間・B-E間・C-E間・D-G間・D-H間は5%で有意となり、酵素添加したものは、しないものに比べて苦味の少ないことがわかったとする。第8表の調整した平均は、A 0.29、B −0.55、C −0.40、D 0.71、E 0.38、F −0.04、G −0.13、H −0.28(+側が苦い、−側が苦くない)で、F比2.88(1%水準で有意)、LSD5%=0.78、LSD1%=1.10。
限界: 判定人は7名と少ない。試料の酸度が同じでなく、酸が苦味の判定を左右した可能性を著者が述べる。本文の「酵素添加は苦味が少ない」は、同じ条件で比べた無添加区との間では有意でない組合せを含む。
データを表示ingredient-natsumikan —has_perceived_bitterness_suppressed_by→ process-citrus-enzymatic-naringinase-debittering
claim: clm-hnprep-natsumikan-canned-naringinase-sensory-tsusaka-1965 / type: sensory / 更新: 2026-10-13

ワタ・種・皮・筋を除く減る食品

条件: 果肉を袋(じょうのう)から取り出し、薄皮(じょうのう皮)を除く(凍結した果肉で比較)。

薄皮を付けたまま凍結した果肉は、除いたものより明らかに苦かった(対比較14回すべて、苦味評点は+3.4対+1.6)。ただし除いても、なおかなりの苦味が残った。手で除いても薬剤で除いても差は無かった。

夏みかんの知覚苦味に影響する要因: 夏みかんの袋(じょうのう)から果肉を取り出して凍結すると、じょうのう皮(薄皮)を付けたまま凍結した果肉は、じょうのう皮を除いて凍結した果肉より明らかに苦かった(対比較14回すべてで付けた方が苦いと判断、苦味評点は+3.4対+1.6)。ただし、除いても「なおかなりの苦味」があった。じょうのう皮を手で除いた場合と、酸とアルカリの薬剤で完全に除いた場合の果肉の苦味には、有意な差がなかった。支持あり

範囲: 広島産のナツミカン。果皮を除いて身割りした袋(セグメント)のまま、あるいはじょうのう皮を除いたものを−20℃で10日貯蔵し、対比較識別法で苦味を比べ、−4(苦くない)〜+4(極めて苦い)の尺度でも評価した。じょうのう皮付きの試料は凍結したままじょうのう皮を除いて果肉を食味した

注記: 凍結した果肉での結果で、生の夏みかんの果肉やじょうのう皮付きで食べる場合の結果ではない。評点は、強く苦い試料と一緒に比べられたため低めに出ており(同じ表の別の組では、じょうのう皮を除いたほぼ同じ材料が2.6と評価され、一般の食用にならない強い苦味とされた)、絶対的な値として読まない。判断数は表に14回と示され、パネルの人数は本文にない。凍結で苦味が増す仕組みについて、著者は、解凍で溶け出したナリンギンが果肉表面に局部的に高い濃度となるためとする。

Table 2 は、じょうのう皮付きで凍結した果肉と、じょうのう皮を手で除いて凍結した果肉(I)を比べ、より苦いと判断した数を 14 対 0(0.1% 水準で有意)、苦味評点を +3.4 対 +1.6 とする(評点には検定の記載が無い)。+1.6 には、同じ試料でも対比の効果で評点が変わったという注があり、同じ果肉が下の比較では +2.6 だった。手で除いた果肉(I)と薬剤(塩酸と水酸化ナトリウム)で除いた果肉(II)は 8 対 6、+2.6 対 +2.4 で有意差なし。
限界: パネルの人数が本文にない。凍結した果肉が材料。評点は比較対象の影響を受ける(著者が注記)。
出典: ナツミカン果実の凍結による苦味の増大について(岩田隆; 緒方邦安, 1976)・全文確認
データを表示ingredient-natsumikan —has_perceived_bitterness_affected_by→ (上の主張の文)
claim: clm-hnprep-natsumikan-segment-cover-bitterness-iwata-1976 / type: sensory / 更新: 2026-10-13

言い伝え(未検証)

苦味が動いたかどうかを実測した資料が、この研究所の台帳にまだ無い方法です。効くとも効かないとも言いません。言い伝えの一部は、仮説として仮説採集箱にも置いています。

水さらし未検証食品

条件: 皮を短冊に切り、2%食塩水・流水などに2〜3時間さらす(マーマレード用。ナリンギンの測定と嗜好の評価)。

ナリンギンの約80〜85%(外果皮)、約60〜70%(内白部とひょうのう)が2〜3時間で溶け出した。苦味の強さそのものは測られていない。さらし方を変えたマーマレードを20名が好みで比べたところ、大きな差は無かった。狙う相手: ナリンギン

関連

夏みかん(図鑑) / 主題ハブ 柑橘の皮の下処理 / 主題ハブ 夏みかんの苦味と処理/ 下処理帳の入口 / 仮説採集箱(1)