主題ハブ — 2026-10-21
チーズの苦味は、熟成とスターター(乳酸菌)の選び方で変わるのか
先に断っておくと、値まで全文で読めた研究は少なく、熟成したチーズで株と熟成の長さを比べた研究は、脂肪を減らしたチェダーの研究だけだった。 熟成したチーズが苦くなることがある。その原因として、牛乳のたんぱく質(カゼイン)がスターターの乳酸菌の酵素で分解され、苦いペプチドができることがよく挙げられる。 では、スターターの株や熟成の長さを変えて、人が苦味を比べた研究は何と答えているか。 この頁では、収録した研究を、チーズの種類・スターターの株や補助の菌・熟成の温度と長さ・誰がどの尺度で評価したか、という条件と一緒に並べる。 そのうえで、同じ実験の中で確かめられたことと、研究のあいだの違いから考えられる説明の候補と、 この比較だけでは分けられないことを、分けて書く。 ここで扱うのは研究の比較で、チーズの選び方や作り方の助言ではない。
このページの内容(10 節)
この頁でわかること
- 同じ親株から酵素の型だけを変えたスターターで、人が感じる苦味がはっきり変わった研究があること。
- 熟成で苦味が上がったが、有意だったのは株をまとめた平均の比較で、株ごとの熟成の差は検定の結果が示されていないこと。
- 株の差は熟成の時点によって有意だったりそうでなかったりし、結論と結果で書き方が食い違う研究もあること。
- 補助の菌の研究には要旨と本文で苦味の向きが食い違うものがあり、酵母の研究は抄録しか読めず、研究のあいだでは尺度もチーズの種類も違って並べて比べられないこと。
収録した研究で言える範囲
- スターターの株を変えると、人が感じるチーズの苦味は変わった。同じ親株からタンパク分解酵素の型だけを変えた低脂肪チェダーでは、3 時点の平均で、酵素を持たない株の 1.5 に対し group h の株は 3.9 だった(0〜9 の尺度)。熟成でも苦味は上がり、4 株の平均は 2 か月の 2.4・4 か月の 2.9・6 か月の 3.6 で、6 か月がほかの 2 時点より有意に高かった。 [表の行: Broadbent ら 2002 group h の株 対 酵素なしの株/Broadbent ら 2002 6 か月 対 2 か月]
- ただし、全文で苦味の値まで確かめられた熟成チーズの研究は、低脂肪チェダーの研究だけだった。熟成しない生チーズでも、酵素の遺伝子 prtP を持つ株(3.9・4.1)の方が持たない株(1.7・2.8)より苦かった(0〜5 の尺度)。補助の菌の研究は全文で読めたものもあるが値は載っておらず、酵母やほかのスターターの研究は抄録しか読めなかった。 [表の行: Forler ら 2021 prtP を持つ株 対 持たない株/Benech ら 2003 ナイシンを作る株 対 ナイシンなし/Ferreira と Viljoen 2003 酵母 1 種を単独で 対 2 種とも/Midje ら 2000 SK11 を主に 対 市販のスターター]
苦味の評価の一覧
人の苦味の評価の結果を抜き出した。「比べた群」と「比べた相手」の値は、論文の表や本文のまま(値が図だけのものはそう書いた)。 株どうしの比較のほか、熟成の長さの行も入れた。抄録だけの研究は、抄録に書かれた向きだけを載せた。 「向き」はどちらが苦かったかで書いた。差が有意かどうかは「向き・検定」の欄の検定の段で見る。研究名を押すと、条件の詳しい表へ移る。
人が苦味を評価した結果だけを抜き出した一覧。値の出所(表の値か図からの目測か)は各行に書いた。研究ごとに尺度も測り方も違うので、行の中で比べ、行どうしは比べない。
| 研究 | 比べた組・条件 | 測り方 | 比べた試料 | 比べた相手 | 向き・検定 |
|---|---|---|---|---|---|
| Broadbent ら 2002 | group h の株 対 酵素なしの株 低脂肪チェダー、3 時点(2・4・6 か月)の平均 | 0〜9 の尺度の平均(訓練パネル 14 名、各回の人数は記載なし) | 3.9 | 1.5 | 比べた試料の方が苦い 検定あり・有意 |
| Broadbent ら 2002 | 2 か月の時点 2 か月の時点で、group a・group e の株 対 酵素なしの株 | 0〜9 の尺度の平均(訓練パネル 14 名、各回の人数は記載なし) | 2.5(group a)・2.2(group e) | 1.4 | 比べた試料の方が苦い 検定あり・有意差なし |
| Broadbent ら 2002 | 6 か月 対 2 か月 4 株をまとめた平均 | 0〜9 の尺度の平均(訓練パネル 14 名、各回の人数は記載なし) | 3.6 | 2.4 | 比べた試料の方が苦い 検定あり・有意 |
| Forler ら 2021 | prtP を持つ株 対 持たない株 熟成しない生チーズ、各 2 株 | 0〜5 の尺度 | 3.9(LTH 7123)・4.1(LTH 7122) | 1.7(LTH 7117)・2.8(LTH 7112) | 比べた試料の方が苦い 検定あり・有意 |
| Forler ら 2021 | prtP を持たない株 対 対照 熟成しない生チーズ、発酵させずに酸性にした対照と | 0〜5 の尺度 | 2.8(LTH 7112) | 1.0 | 比べた試料の方が苦い 検定あり・有意 |
| Benech ら 2003 | ナイシンを作る株 対 ナイシンなし チェダー、6 か月 | 記載なし | 要旨は強い、本文は弱い(食い違い) | 値は記載なし | 向きの記載なし 検定の記載なし |
| Ferreira と Viljoen 2003 | 酵母 1 種を単独で 対 2 種とも チェダー、酵母を補助のスターターに | 記載なし(抄録に無い) | 苦い風味が出た(抄録の記述、値なし) | 苦味の記述なし(両方を入れると風味が良好と抄録) | 向きの記載なし 検定の記載なし |
| Midje ら 2000 | SK11 を主に 対 市販のスターター 脂肪を減らしたチェダー、150 日まで | 記載なし(抄録に無い) | かなり低い(抄録の記述、値なし) | 値は抄録に無い | 比べた相手の方が苦い 検定の記載なし |
研究ごとの条件と結果
研究ごとに、チーズの種類と株・熟成・出し方・評価した人の条件と、測った結果を並べる。行の単位は「研究×測定結果」で、 同じ研究の中の別の比較は別の行にした。各行の下に、論文での位置と、 その行が「スターターの株や熟成の長さで、人が感じるチーズの苦味が変わるか」の比較に使えるかを、理由と一緒に書いた。 空欄にせず、「記載なし」(論文に書かれていない)、「読んでいない」、「該当しない」を書き分けている。
Broadbent ら 2002 官能だけ
Contribution of Lactococcus lactis cell envelope proteinase specificity to peptide accumulation and bitterness in reduced-fat Cheddar cheese. Applied and Environmental Microbiology — doi:10.1128/aem.68.4.1778-1785.2002
- 原文の確認の深さ
- 全文で確認 — PMC の全文(表 3〜5、結果)。苦味とペプチドの相関は図 3 の本文で読んだ 確かめた者: LLM(読み取りの係が抜き出し、別の者が原典で照合。人の確認は無い)、2026-10-21。
- 試料
- 脂肪を 50% 減らしたチェダー。同じ親株(主な自己溶解酵素を欠く L. lactis)から、タンパク分解酵素 lactocepin の型だけを変えた 4 株(なし・group a・group e・group h)をそれぞれ単独のスターターに。1 条件 2 槽
- 加工・調理
- 9 kg のブロックを真空包装し 7 °C で熟成。2・4・6 か月に評価
- 出し方・食べ方
- 3 g を符号を付けて無作為の順に
- 誰が・どの尺度で
- キニーネで選んで約 10 回訓練した 14 名。0〜9 の苦味の尺度(方法の節では 1 は「かろうじて感じる」、表の注では「苦味なし」)。分散分析。1 回の評価の人数・繰り返し・ばらつき・多重比較の方法は記載なし
| 測ったもの | 比べた組・条件 | 比べた試料 | 比べた相手 | 単位 | 向き・検定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 苦味の強さ(官能) | group h の株 対 酵素なしの株 低脂肪チェダー、3 時点(2・4・6 か月)の平均 | 3.9 | 1.5 | 0〜9 の尺度の平均(訓練パネル 14 名、各回の人数は記載なし) | 比べた試料の方が苦い 検定あり・有意 |
| 株の効果は P<0.0001。group a(3.1)と group e(3.2)の株も酵素なしの株より有意に苦い。group h の株だけが 3 時点すべてで酵素なしの株より有意に苦い。苦味の点と αS1-CN f1-9(lactocepin が作るペプチド)の濃度の相関は r=0.56。β-CN f193-209 は r=0.58 だが、凝乳酵素(キモシン)由来で、濃度に株の効果は無かった(P>0.5) 原典の位置: 表 5・結果・図 3 スターターの株や熟成の長さで、人が感じるチーズの苦味が変わるかの比較に: 使える — 同じ親株から酵素の型だけを変え、同じ作り方・同じ熟成で人が苦味を比べた | |||||
| 苦味の強さ(官能) | 2 か月の時点 2 か月の時点で、group a・group e の株 対 酵素なしの株 | 2.5(group a)・2.2(group e) | 1.4 | 0〜9 の尺度の平均(訓練パネル 14 名、各回の人数は記載なし) | 比べた試料の方が苦い 検定あり・有意差なし |
| 2 か月では、酵素なしの株より有意に苦かったのは group h の株(3.5)だけで、group a と group e は有意差なし。group a は 6 か月(3.5)でも有意差なし 原典の位置: 表 5 スターターの株や熟成の長さで、人が感じるチーズの苦味が変わるかの比較に: 使える — 同じ研究の同じ時点の比較で、株の差が時点によって有意かどうか変わることを示す | |||||
| 苦味の強さ(官能) | 6 か月 対 2 か月 4 株をまとめた平均 | 3.6 | 2.4 | 0〜9 の尺度の平均(訓練パネル 14 名、各回の人数は記載なし) | 比べた試料の方が苦い 検定あり・有意 |
| 熟成の月数の効果は P<0.0001。4 か月は 2.9 で、6 か月は 2 か月・4 か月より有意に高く、2 か月と 4 か月は有意差なし。酵素なしの株は 1.4 から 1.8。株ごとの月数の差や、株と月数の交互作用の検定の結果は示されていない 原典の位置: 表 5 スターターの株や熟成の長さで、人が感じるチーズの苦味が変わるかの比較に: 限られる — 熟成の長さの効果だが 4 株をまとめた平均で、株ごとの月数の差の検定の結果は示されていない | |||||
Forler ら 2021 官能だけ
Effects of Protein, Calcium, and pH on Gene Transcription, Cell-Envelope Peptidase Activity of Lactococcus lactis Strains, and the Formation of Bitter Peptides. Foods 10(7):1588 — doi:10.3390/foods10071588
- 原文の確認の深さ
- 全文で確認 — Europe PMC の全文(2.2.2・3.1 節、表 1・2)。ばらつきと有意の印は図 1 だけで、図は見ていない 確かめた者: LLM(読み取りの係が抜き出し、別の者が原典で照合。人の確認は無い)、2026-10-21。
- 試料
- 熟成しない生チーズ(濃縮した乳たんぱくを発酵。たんぱく 8.5%・カルシウム 74 mM)。タンパク分解酵素の遺伝子 prtP を持つ L. lactis 2 株(LTH 7122・7123)と、持たない 2 株(LTH 7112・7117)を、それぞれ単独で。対照は発酵せずクエン酸で酸性にしたもの。各条件 2 回作る
- 加工・調理
- 22.5 °C で pH 4.7 まで発酵(持たない株は pH 5.1 と 5.5 で止まった)。6 °C 以下で 1 週間保存
- 出し方・食べ方
- 20〜30 g・約 10 °C、均一にしてから鼻栓をして
- 誰が・どの尺度で
- 訓練したパネル 25 名のうち 1 回 12〜13 名。0〜5 の線の尺度(毎回、市販品を 0、LTH 7122 の生チーズを 4 とする基準を出した)。分散分析と Fisher の LSD
| 測ったもの | 比べた組・条件 | 比べた試料 | 比べた相手 | 単位 | 向き・検定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 苦味の強さ(官能) | prtP を持つ株 対 持たない株 熟成しない生チーズ、各 2 株 | 3.9(LTH 7123)・4.1(LTH 7122) | 1.7(LTH 7117)・2.8(LTH 7112) | 0〜5 の尺度 | 比べた試料の方が苦い 検定あり・有意 |
| 持つ株は有意に高いと本文。LTH 7122 の生チーズは毎回の基準として 4 と決めて出しており、4.1 はそれに近い。結論は持たない株は苦味を生まなかったと書くが、結果・考察では LTH 7112 が対照より有意に苦い 原典の位置: 3.1 節・図 1 スターターの株や熟成の長さで、人が感じるチーズの苦味が変わるかの比較に: 限られる — 株の違いを人が比べたが、熟成しない生チーズで、熟成の効果は見ていない。株は亜種や入手先も違う | |||||
| 苦味の強さ(官能) | prtP を持たない株 対 対照 熟成しない生チーズ、発酵させずに酸性にした対照と | 2.8(LTH 7112) | 1.0 | 0〜5 の尺度 | 比べた試料の方が苦い 検定あり・有意 |
| 持たない株の LTH 7112 は対照より有意に苦いと考察に書く。もう 1 株(1.7)と対照の検定の結果は本文から確かめられない 原典の位置: 4 節(考察)・図 1 スターターの株や熟成の長さで、人が感じるチーズの苦味が変わるかの比較に: 限られる — 発酵の有無の比較で、酵素の有無の比較ではない | |||||
Benech ら 2003 官能だけ
Impact of Nisin Producing Culture and Liposome-Encapsulated Nisin on Ripening of Lactobacillus Added-Cheddar Cheese. Journal of Dairy Science 86(6):1895-1909 — doi:10.3168/jds.S0022-0302(03)73776-X
- 原文の確認の深さ
- 全文で確認 — 全文(官能の結果・表 6)。2026-10-21 の全文での再評価で読み直した 確かめた者: LLM(読み取りの係が抜き出し、別の者が原典で照合。人の確認は無い)、2026-10-21。
- 試料
- チェダー。ナイシンに強い主スターターに、ナイシンを作る乳酸菌(L. lactis UL719)、L. casei-casei L2A の補助、リポソームに包んだナイシン Z を組み合わせた
- 加工・調理
- 6 か月熟成
- 出し方・食べ方
- 約 100 g のチーズを 5 g の角切りにし、4 桁の乱数で符号化。冷蔵(7 ℃)から出して 1 時間室温(22±1 ℃)に置いてから提示
- 誰が・どの尺度で
- 訓練と経験のある 5 名。5 点の嗜好尺度で食感・風味・総合品質を評価し、各人 3 回。結果は風味の欠点の記述と総合品質の順位で、苦味の強さの数値表は無い。統計は分散分析と Fisher の PLSD(官能の結果への適用は本文から確かめられない)
| 測ったもの | 比べた組・条件 | 比べた試料 | 比べた相手 | 単位 | 向き・検定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 苦味の強さ(官能) | ナイシンを作る株 対 ナイシンなし チェダー、6 か月 | 要旨は強い、本文は弱い(食い違い) | 値は記載なし | 記載なし | 向きの記載なし 検定の記載なし |
| 要旨は、ナイシンを作る株を入れると酸味と苦味が強まったと書くが、本文の官能の結果は、ナイシンを入れない同じスターターのチーズより苦味が弱いと書き、向きが食い違う。L. casei を補助に入れたチーズは苦味が弱まり、風味の質の順位が上がった(本文は主に L. casei の効果とする) 原典の位置: 抄録・本文の官能の結果・表 6 スターターの株や熟成の長さで、人が感じるチーズの苦味が変わるかの比較に: 限られる — 補助の菌の効果を人が比べたが、ナイシンを作る株の苦味は要旨と本文で向きが食い違い、値も載っていない | |||||
Ferreira と Viljoen 2003 官能だけ
Yeasts as Adjunct Starters in Matured Cheddar Cheese. International Journal of Food Microbiology 86(1-2):131-140 — doi:10.1016/s0168-1605(03)00252-6
- 原文の確認の深さ
- 要旨まで — 抄録だけ(全文は有料) 確かめた者: LLM(読み取りの係が抜き出し、別の者が原典で照合。人の確認は無い)、2026-10-21。
- 試料
- チェダー。酵母 D. hansenii・Y. lipolytica を 1 種ずつ、または 2 種とも補助のスターターに。対照は酵母なし
- 加工・調理
- 熟成(2 種とも入れたものは製造から 9 か月後も風味が良好と抄録。熟成の温度と苦味を評価した時点は抄録に無い)
- 出し方・食べ方
- 記載なし(抄録に無い)
- 誰が・どの尺度で
- 官能の方法は抄録に無い
| 測ったもの | 比べた組・条件 | 比べた試料 | 比べた相手 | 単位 | 向き・検定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 苦味の強さ(官能) | 酵母 1 種を単独で 対 2 種とも チェダー、酵母を補助のスターターに | 苦い風味が出た(抄録の記述、値なし) | 苦味の記述なし(両方を入れると風味が良好と抄録) | 記載なし(抄録に無い) | 向きの記載なし 検定の記載なし |
| 抄録は、酵母を 1 種ずつ単独で入れると苦い風味が出たと書き、2 種とも入れると良好な風味が 9 か月後も保たれたと書く。単独と 2 種ともの苦味の強さの比較と検定は抄録に無い 原典の位置: 抄録 スターターの株や熟成の長さで、人が感じるチーズの苦味が変わるかの比較に: 限られる — 乳酸菌の株でなく酵母の補助の効果。苦味の強さを点にして比べたかは抄録から分からない | |||||
Midje ら 2000 官能だけ
Flavor Enhancement of Reduced Fat Cheddar Cheese Using an Integrated Culturing System. Journal of Agricultural and Food Chemistry 48(5):1630-1636 — doi:10.1021/jf990301w
- 原文の確認の深さ
- 要旨まで — 抄録だけ(全文は有料) 確かめた者: LLM(読み取りの係が抜き出し、別の者が原典で照合。人の確認は無い)、2026-10-21。
- 試料
- 脂肪を減らしたチェダー。L. lactis subsp. cremoris SK11 を主のスターターにし、L. lactis biovar diacetylactis JVI と L. casei 7A を組み合わせたものと、市販のスターター
- 加工・調理
- 150 日熟成
- 出し方・食べ方
- 記載なし(抄録に無い)
- 誰が・どの尺度で
- 人数・尺度は抄録に無い
| 測ったもの | 比べた組・条件 | 比べた試料 | 比べた相手 | 単位 | 向き・検定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 苦味の強さ(官能) | SK11 を主に 対 市販のスターター 脂肪を減らしたチェダー、150 日まで | かなり低い(抄録の記述、値なし) | 値は抄録に無い | 記載なし(抄録に無い) | 比べた相手の方が苦い 検定の記載なし |
| 抄録は、SK11 で作ったチーズは市販のスターターより苦味の強さが「かなり低い」と書く。値と検定は抄録に無い 原典の位置: 抄録 スターターの株や熟成の長さで、人が感じるチーズの苦味が変わるかの比較に: 限られる — 主のスターターの違いを比べたと抄録は書くが、値・人数・検定を全文で確かめていない | |||||
実験の中で確かめられたこと
同じ研究の中で、同じ評価者が条件を変えて比べた結果だけを書く。
- 低脂肪チェダーでは、株と熟成の長さのどちらも苦味に有意に効いた(P<0.0001)。group a(3.1)・group e(3.2)・group h(3.9)の株は 3 時点の平均で酵素を持たない株(1.5)より有意に苦かったが、2 か月の時点で有意に苦かったのは group h の株(3.5)だけで、group a(2.5)と group e(2.2)は酵素を持たない株(1.4)と有意差がなかった。 [表の行: Broadbent ら 2002 group h の株 対 酵素なしの株/Broadbent ら 2002 2 か月の時点]
- 熟成しない生チーズでは、prtP を持つ株(3.9・4.1)が持たない株(1.7・2.8)より有意に苦かった。結論は持たない株は苦味を生まなかったと書くが、考察では持たない株のうち LTH 7112(2.8)も、発酵させずに酸性にした対照(1.0)より有意に苦い。 [表の行: Forler ら 2021 prtP を持つ株 対 持たない株/Forler ら 2021 prtP を持たない株 対 対照]

酵素なし
group a
group e
group h
脂肪を減らしたチェダーで、同じ親の乳酸菌から、タンパク質を分ける酵素の型だけを変えた四つの株をスターターにした研究。印の紫の濃淡は、熟成三時点をまとめた苦味の平均の粗い順序だけを示す。真ん中の二つは平均が近いので同じ濃さにまとめたもので、同じ値や差が無いという意味ではなく、どの組にも有意差があるという意味でもない。熟成の長さは描き分けていない。チーズの見た目は四つとも同じに描いた。紫は実際の色ではない。
出典: Broadbent ほか 2002(表の「研究ごとの条件と結果」の Broadbent ら 2002)
説明図: イラスト係(PurpleHeron)
結果の違いの説明の候補
研究のあいだ、または試料のあいだで違う条件のうち、苦味の違いを説明しうるもの。 複数の条件が同時に違うので、どれが効いたかは分からない。ここに書くのは候補で、原因ではない。
- 株による苦味の違いの説明の候補は、乳酸菌のタンパク分解酵素 lactocepin がカゼインから作る苦いペプチドの量。低脂肪チェダーでは、苦味の点と lactocepin が作る αS1-CN f1-9 の濃度の相関が r=0.56 だった。もう 1 つの β-CN f193-209(r=0.58)は凝乳酵素(キモシン)由来で、濃度に株の効果は無かった(P>0.5)。どちらも相関なので、そのペプチドが苦味を決めたとまでは言えない。 [表の行: Broadbent ら 2002 group h の株 対 酵素なしの株]
- 補助の菌や酵母、主のスターターの選び方でも苦味は動くと書く研究がある。L. casei を補助に入れたチーズは苦味が弱まった(全文)。ナイシンを作る株の苦味は、要旨(強まった)と本文(ナイシンなしより弱い)で向きが食い違う。酵母を単独で入れると苦い風味が出た、SK11 を主にすると市販のスターターより苦味が「かなり低い」とも抄録は書く。値と検定は確かめていない。 [表の行: Benech ら 2003 ナイシンを作る株 対 ナイシンなし/Ferreira と Viljoen 2003 酵母 1 種を単独で 対 2 種とも/Midje ら 2000 SK11 を主に 対 市販のスターター]
分かっていないこと——この比較だけでは分けられないこと
- 研究のあいだでは、チーズの種類(熟成した低脂肪チェダーと熟成しない生チーズ)・尺度(0〜9 と 0〜5)・評価の仕方が違い、苦味の点は並べて比べられない。 [表の行: Broadbent ら 2002 group h の株 対 酵素なしの株/Forler ら 2021 prtP を持つ株 対 持たない株]
- 全脂肪のチーズや、ゴーダなどほかの種類で同じ向きになるか、熟成の長さと株の効果が組み合わさってどう動くかは、収録した研究では分けられない。株と熟成の長さの両方を全文で確かめられたのは、低脂肪チェダーの研究だけだった。 [表の行: Broadbent ら 2002 group h の株 対 酵素なしの株/Broadbent ら 2002 6 か月 対 2 か月]
研究と行の数え方
根拠の行の数は、研究の数ではない。表の行・台帳の根拠の行・論文・研究グループを分けて数える。
- 表に入れた資料: 5 本。うち人が評価した苦味の結果をこの表に載せたのは 5 本。ほかは、別のもの(成分・におい)の結果だけを載せたか、条件を考える材料として入れた。
- 表の行(研究×測定結果): 8 行。うち人が感じる苦味の行: 8 行。
- この表が拠っている研究所の台帳の根拠の行: 0 行。1 本の論文から複数の行を作っている。台帳の根拠の行が無い行は、同じ論文の別の表から取った値か、この問いのために新しく読んだ資料の値である。
- 苦味の結果を載せた研究の、台帳の上の研究グループの区分の数: 5(同じ研究室の報告は 1 つと数えた。共著者や所属が重なる所もあり、独立した追試の数ではない)。
調べた範囲
この問いのために見た資料と、表に入れた・除いた理由、全文に当たれなかった資料を残す。 Europe PMC で、チーズの苦味を人が評価し、スターターの株・補助の菌・熟成の長さを比べた研究を探し、研究所の台帳にある資料と合わせた(J-STAGE と CiNii は探していない)。 全文の頁が確認画面で止まったものや有料のものは、抄録だけで読んだと書いた。
| 資料 | 扱い | 理由 |
|---|---|---|
| Contribution of Lactococcus lactis cell envelope proteinase specificity to peptide accumulation and bitterness in reduced-fat Cheddar cheese (2002) doi | 表に入れた | 株の酵素だけを変え、熟成の時点ごとに苦味を比べた。全文で読んだ |
| Effects of Protein, Calcium, and pH on Gene Transcription, Cell-Envelope Peptidase Activity of Lactococcus lactis Strains, and the Formation of Bitter Peptides (2021) doi | 表に入れた | 生チーズで株の違いの苦味を比べた。全文で読んだ |
| Impact of Nisin Producing Culture and Liposome-Encapsulated Nisin on Ripening of Lactobacillus Added-Cheddar Cheese (2003) doi | 表に入れた | 補助の菌の苦味の向き。抄録だけで読んだ |
| Yeasts as Adjunct Starters in Matured Cheddar Cheese (2003) doi | 表に入れた | 酵母の補助の苦味の向き。抄録だけで読んだ |
| Flavor Enhancement of Reduced Fat Cheddar Cheese Using an Integrated Culturing System (2000) doi | 表に入れた | 主のスターターの違いの苦味の向き。抄録だけで読んだ |
| Change of proteolysis and sensory profile during ripening of Cheddar-style cheese as influenced by a microbial rennet from rice wine (2019) doi | 除いた | 凝固剤の違いで、苦味の値は図だけ、苦味だけの検定の結果が書かれていない |
| Application of Exopolysaccharide-Producing Cultures in Reduced-Fat Cheddar Cheese: Composition and Proteolysis (2005) doi | 除いた | 抄録に苦味の官能評価が無い(全文は確認画面で止まった) |
| Relationship between MALDI-TOF analysis of beta-CN f193-209 concentration and sensory evaluation of bitterness intensity of aged cheddar cheese (2002) doi | 表に入れず、文脈の資料として見た | 180 日と 270 日のペプチドの濃度と苦味の相関(r=0.803・0.554)で、熟成の長さによる苦味の差の結果ではない。抄録だけ |
| Identification of bitter peptides in aged cheddar cheese (2014) doi | 表に入れず、文脈の資料として見た | 熟成したチェダーの苦味ペプチドの同定。抄録だけ |
| Sensomics mapping and identification of the key bitter metabolites in Gouda cheese (2008) doi | 表に入れず、文脈の資料として見た | ゴーダの苦味物質の同定と閾値。条件の比較ではない。抄録だけ |
| Bitterness in Cheese: A Review (1996) doi | 表に入れず、文脈の資料として見た | 総説。抄録だけで、扱った研究の名前は抄録に無い |
図鑑で読む
- チーズ — この問いの食品
- 苦味ペプチド — 苦味の候補の成分
- 発酵と苦味ペプチド — 発酵の主題ハブ
- ブロッコリーやケールなどアブラナ科の野菜を苦く感じるのは遺伝子(TAS2R38)のせいか — 同じ形の比較の頁
出典台帳
表の各研究の出典は、研究ごとの欄からたどれる。研究所の全体の出典は出典台帳にまとめている。
この頁の引用のしかた
青木大(NIGAMI LAB)(2026). チーズの苦味は、熟成とスターター(乳酸菌)の選び方で変わるのか — 研究ごとの条件と結果. https://nigamilab.com/topics/cheese-starter-ripening/
主張ごとの固定リンクは各カードの #clm-… です。データは CC BY 4.0、配布は データを使う。 データセットの DOI: 10.5281/zenodo.22739101