下処理帳 — 苦味を引く側。この帳面は苦味だけを見る

チーズの下処理帳

チーズ(図鑑の項目)の下処理を方法ごとに並べ、苦味が動いたかどうかを根拠つきで判定します。 アク・えぐみ・渋味は別の目的として注記し、毒性や安全のための理由は書きません。

このページの内容(6 節)
  1. 判定の一覧(7)
  2. 読み比べて分かったこと
  3. 減る(3)
  4. 増える(3)
  5. 言い伝え(未検証)(1)
  6. 関連
↑

判定の一覧

方法判定
発酵減る
発酵減る
発酵減る
発酵増える
発酵増える
発酵増える
発酵未検証

読み比べて分かったこと

チーズの下処理の行はすべて菌の選び方ですが、苦味の向きは両方に出ています。乳酸菌を補助に足して苦味が弱まった報告と、酵母などを足して苦味が生まれた報告が、同じ方法の中に並んでいます。苦味の強さを数字で示した官能の結果は、高タンパクの濃縮乳で作ったフレッシュチーズの研究だけです。そこでは、菌の外でたんぱく質を分解する酵素PrtPを持つ株で発酵したチーズの苦味が、0〜5の尺度で3.9と4.1、持たない株では1.7と2.8でした。同じ発酵でも、使う菌の性質で苦味の向きが変わりうることを、この並びは示しています。

資料の中にも食い違いがあります。PrtPの研究の結論は、PrtPを持たない株は苦味を生まなかったとまとめていますが、結果ではその株のチーズも市販の参照品の0.5より苦く、考察は片方の株のチーズが発酵させない対照の1.0より有意に苦かったと書いています。ナイシンZを作る株を入れたチェダーでは、要旨は対照より苦味が強まったと書き、本文の官能の結果はナイシンを入れない同じスターターのチーズより弱いと書いていて、向きが逆です。どちらも原典の中では解けず、ナイシンを作る株が苦味を強めるのか弱めるのかは決められません。

チェダーで苦味が下がった側の資料は、強さの数字を持っていません。乳酸菌Lb. caseiを補助に加えた試験は5名による風味の品質の順位で、苦味の強さの表も検定もなく、乳の加熱条件も区ごとに違います。スターターの組み合わせで苦味がかなり低かったという試験と、酵母の単独添加で苦味が出たという試験は、要旨までしか確かめていません。PrtPを持つ株と持たない株を組み合わせる案は著者の提案で、まだ試されていません。言えるのは、菌株の選び方がチーズの苦味を上げも下げもしうるというところまでで、どの株でどれだけ変わるかは比べられません。

この節の根拠(4)
  1. Effects of Protein, Calcium, and pH on Gene Transcription, Cell-Envelope Peptidase Activity of Lactococcus lactis Strains, and the Formation of Bitter Peptides — Forler B; Horstmann G; Schäfer J; Michel C; Weiss A; Stressler T; Fischer L; Hinrichs J; Schmidt H / 2021 / 全文確認
    この節で確認した範囲: PrtPの有無で分けた株ごとの苦味スコア(全文)/PrtP陰性株について結論と結果・考察の強さがずれていること(全文)/PrtP陽性株と陰性株の組み合わせが未検証の提案であること(全文)
  2. Yeasts as Adjunct Starters in Matured Cheddar Cheese — Ferreira AD; Viljoen BC / 2003 / 抄録確認
    この節で確認した範囲: 酵母の単独添加で苦味が生じた報告(要旨まで)/酵母の単独添加の報告が要旨までであること
  3. Impact of Nisin Producing Culture and Liposome-Encapsulated Nisin on Ripening of Lactobacillus Added-Cheddar Cheese — Benech RO; Kheadr EE; Lacroix C; Fliss I / 2003 / 全文確認
    この節で確認した範囲: 乳酸菌を補助に加えて苦味が弱まった報告(全文)/ナイシンZ産生株の苦味で要旨と本文の向きが逆なこと(全文)/Lb. caseiの官能が5名の品質順位で強さの数値が無いこと(全文)
  4. Flavor Enhancement of Reduced Fat Cheddar Cheese Using an Integrated Culturing System — Midje DL; Bastian ED; Morris HA; Martin FB; Bridgeman T; Vickers ZM / 2000 / 抄録確認
    この節で確認した範囲: スターターの組み合わせで苦味がかなり低かった報告(要旨まで)

減る

発酵減る食品

条件: Lactobacillus casei-casei L2Aのアジャンクト培養とナイシンZ産生株を組み合わせて添加したCheddarチーズ(6か月熟成)。

特定の乳酸菌アジャンクトとナイシン産生株を組み合わせて加えると、脱苦味効果を示し風味品質が向上したと報告されている。狙う相手: 苦味ペプチド

チーズは次の方法で脱苦味できる: Lactobacillus casei-casei L2A のアジャンクト培養を加えた Cheddar チーズは苦味が弱まり、風味の品質の順位が上がった(本文は主に Lb. casei の効果とする)。ナイシン産生株やリポソーム封入ナイシン Z と併せたときの官能上の上乗せは確定できない。予備的

範囲: 同上(Cheddarチーズ、6か月熟成)。

注記: 『脱苦味効果』が生じた組み合わせ(Lb. casei + ナイシン産生株)と『風味強度が最高』と評価された組み合わせ(Lb. casei + リポソーム封入ナイシン)は抄録上区別されており、混同しないよう記述した。 本文の総合品質の順位で首位の NFB は Lb. casei だけを加えナイシンを含まない区で、ナイシン産生株と併せた ISNB は NF より下位だった。(2026-10-21 広げる段 N5 段 C 第 5 束、Codex の照合で、官能は5名による総合品質の評価で苦味の強さの数値も検定も無く、Lb. casei の有無で乳の加熱条件も違うことを確かめた。supported から preliminary へ)

Lb. casei を補助に入れたチーズは苦味が弱まり、風味の品質の順位が上がった。総合品質の順位は NFB(Lb. casei のみ、ナイシンなし)と LNB(Lb. casei とリポソームのナイシン)が同順位で首位、以下 NF>ISNB(Lb. casei とナイシン産生株)>ISN>COM で、NFB と LNB の風味の差は検出されなかった。脱苦味は主に Lb. casei によると本文は書く。6 か月の 280 nm の疎水性ペプチドのピーク面積(×10^7)は ISNB 0.86・NFB 1.07・LNB 1.10 で、著者はナイシン産生株と脱苦味株の組み合わせが風味の品質を高めうると考察する。
限界: 官能は風味の強さでなく風味の質の順位。パネルは5名で、苦味の強さの数値表も検定もない。ナイシンを併せたときの官能上の上乗せは確定できない(化学的な変化は報告されている)。Lb. casei の有無で乳の加熱条件(72 °C と 80 °C)も違う。
データを表示ingredient-cheese —can_be_debittered_by→ (上の主張の文)
claim: clm-cheddar-casei-nisin-debittering / type: processing / 更新: 2026-10-21

発酵減る食品

条件: 特定のラクトバチルス属菌株またはその酵素を、促進熟成チーズ(ARC)・酵素変性チーズ(EMC)の製造にアジャンクトとして用いる(総説、1996年)。

特定の乳酸菌株やその酵素をアジャンクトとして用いると、苦味を伴わない製品が得られる手法として総説されている。狙う相手: 苦味ペプチド

チーズは次の方法で脱苦味できる: 特定のラクトバチルス属菌株またはその酵素を、促進熟成チーズ(ARC = accelerated ripened cheese)・酵素変性チーズ(EMC = enzyme-modified cheese)の製造にアジャンクトとして用いることで、苦味を伴わない製品を得る手法が特に詳しく総説されている。支持あり

範囲: 同上のチーズ苦味に関する総説(1996年)。

ラクトバチルス属菌株やその酵素を促進熟成チーズ(ARC)・酵素変性チーズ(EMC)にアジャンクトとして用い、苦味を伴わない製品を得る手法が詳しく総説されている。
出典: Bitterness in Cheese: A Review(Habibi-Najafi MB; Lee BH, 1996)・抄録確認
データを表示ingredient-cheese —can_be_debittered_by→ (上の主張の文)
claim: clm-cheese-debittering-arc-emc-review / type: processing / 更新: 2026-09-01

発酵減る食品

条件: 3種のスターター株(SK11・diacetylactis JVI・L. casei 7A)を組み合わせた統合培養系。低脂肪Cheddar、150日間熟成。

SK11を主酸生成株とする統合培養系を用いた低脂肪Cheddarチーズは、市販Cheddarスターターを用いたチーズに比べ苦味強度が顕著に低かった。

チーズは次の方法で脱苦味できる: 3種のスターター株(Lactococcus lactis subsp. cremoris SK11、L. lactis subsp. lactis biovar diacetylactis JVI、Lactobacillus casei 7A)のうちSK11を主酸生成株として選び組み合わせた統合培養系。SK11を用いたチーズは、市販Cheddarスターターを用いたチーズに比べ苦味強度が顕著に低かった。支持あり

範囲: 低脂肪(reduced fat) Cheddarチーズ、150日間熟成。化学・微生物・官能分析を定期的に実施。

注記: 『顕著に低い』の具体的スコア差は抄録に記載がなく、本文は未確認のため書かない。

SK11を主酸生成株とする統合培養系を用いた低脂肪Cheddarチーズは、市販Cheddarスターターを用いたチーズに比べ苦味強度がかなり低かった(原文 'substantially lower')。diacetylactis JVI は、抄録の表記で 'diacetylacetoin and acetate' の濃度を有意に増加させ、官能ではバター様(ダイアセチル)風味が増した。
限界: 抄録に具体的な苦味スコア差の数値は記載されていない。苦味の差の検定結果も抄録に無く、苦味が無かったことを意味するものではない。
出典: Flavor Enhancement of Reduced Fat Cheddar Cheese Using an Integrated Culturing System(Midje DL; Bastian ED; Morris HA; Martin FB; Bridgeman T; Vickers ZM, 2000)・抄録確認
データを表示ingredient-cheese —can_be_debittered_by→ (上の主張の文)
claim: clm-cheddar-integrated-starter-nonbitter / type: processing / 更新: 2026-09-01

増える

発酵増える食品

条件: PrtP陽性株(LTH 7123・LTH 7122)とPrtP陰性株(LTH 7117・LTH 7112)で発酵させた高タンパク濃縮乳フレッシュチーズ(0=無苦味〜5=極めて苦い、訓練パネルn≥12)。

PrtP陽性株で発酵させたチーズは苦味スコア3.9・4.1に達し、PrtP陰性株の1.7・2.8より有意に高かった(p<0.05)。PrtP陰性株のチーズも、非発酵の対照(1.0)や市販の発酵参照品(0.5)より苦かった。

チーズの苦味の発生を左右する要因: 細胞外プロテイナーゼPrtP陽性のLactococcus lactis株(LTH 7123・LTH 7122)を用いて発酵させた高タンパク濃縮乳フレッシュチーズは苦味スコア3.9・4.1(0=無苦味〜5=極めて苦い、パネル人数n≥12名、i=2反復)を示し、PrtP陰性株(LTH 7117・LTH 7112)を用いたチーズの1.7・2.8より有意に高かった(p<0.05)。PrtP陰性株のチーズも、市販の発酵濃縮フレッシュチーズ参照品(FCo、苦味0.5)より苦味が高かった。発酵を行わず直接酸性化した対照チーズ(CoF)は苦味1.0(ごくわずかに苦い)と判定され、CoFとFCoの間に有意差はなかった。支持あり

範囲: ミセルカゼイン粉末を再構成した高タンパク濃縮乳(タンパク質8.5%、カルシウム約74 mM)を発酵させた実験的フレッシュチーズ(CoF)。訓練した25名のうち各回12〜13名による苦味の評価。

注記: 本論文の結論部は『PrtP陰性株は苦味を生じさせなかった』と要約しているが、結果部の数値(対応する evidence の limits 行を参照)とは強さの評価にずれがあり、考察は LTH 7112 のチーズが直接酸性化した対照より有意に苦かったと書く。

PrtP陽性株 LTH 7123・LTH 7122 で発酵したCoF生チーズの苦味スコアはそれぞれ 3.9・4.1、PrtP陰性株 LTH 7117・LTH 7112 は 1.7・2.8(0-5点尺度)。本文は、陽性株のチーズの苦味が陰性株より有意に高かったとする(p<0.05。群ごとの有意差の記号は図1にあり、図は確かめていない)。
限界: 非発酵直接酸性化対照(CoF control)と市販参照品(FCo)の間には有意差がなかった。群ごとの有意差の記号は図1だけにあり、図は確かめていない。
出典: Effects of Protein, Calcium, and pH on Gene Transcription, Cell-Envelope Peptidase Activity of Lactococcus lactis Strains, and the Formation of Bitter Peptides(Forler B; Horstmann G; Schäfer J; Michel C; Weiss A; Stressler T; Fischer L; Hinrichs J; Schmidt H, 2021)・全文確認
限定: 結論部は『prtP陰性株は苦味を生じさせなかった(did not introduce bitterness)』と要約しているが、結果部では PrtP陰性株のチーズ(LTH 7117 で 1.7、LTH 7112 で 2.8)も市販の発酵参照品FCo(0.5)より苦味が高く、LTH 7117 は『やや苦い』と判定された。考察は、LTH 7112 のチーズが非発酵の直接酸性化対照CoF(1.0)より有意に苦かったと明記し、陰性株でもある程度苦味を生じうるとする。要約と結果・考察の間に強さの表現のずれがある。
出典: Effects of Protein, Calcium, and pH on Gene Transcription, Cell-Envelope Peptidase Activity of Lactococcus lactis Strains, and the Formation of Bitter Peptides(Forler B; Horstmann G; Schäfer J; Michel C; Weiss A; Stressler T; Fischer L; Hinrichs J; Schmidt H, 2021)・全文確認
データを表示ingredient-cheese —develops_bitterness_depending_on→ (上の主張の文)
claim: clm-cheese-prtp-strain-bitterness-sensory / type: sensory / 更新: 2026-10-21

発酵増える食品

条件: Debaryomyces hanseniiまたはYarrowia lipolyticaを単独でアジャンクト添加した熟成Cheddar(南アフリカ、対照・単独二種・併用の四区分の比較)。

D. hanseniiまたはY. lipolyticaを単独でアジャンクトとして加えた熟成Cheddarチーズは、風味の発達が早まる一方、苦味の発生も伴った。

チーズの苦味の発生を左右する要因: Debaryomyces hanseniiまたはYarrowia lipolyticaのいずれか一方を単独でアジャンクト培養として添加した熟成Cheddarチーズは、Cheddar様の風味発達が促進される一方、苦味の発生も伴った。支持あり

範囲: 対照区・D. hansenii単独・Y. lipolytica単独・両種併用の4区分で比較した熟成Cheddarチーズ(実験の国は抄録に記載なし)。

注記: 官能評価の具体的な尺度・パネル人数は抄録に記載なし。

D. hanseniiまたはY. lipolyticaを単独でアジャンクトとして添加した熟成Cheddarチーズは、Cheddar風味の発達が加速される一方、苦味風味の発生も伴った。
限界: 官能パネルの人数・尺度は抄録からは判断できない。
出典: Yeasts as Adjunct Starters in Matured Cheddar Cheese(Ferreira AD; Viljoen BC, 2003)・抄録確認
データを表示ingredient-cheese —develops_bitterness_depending_on→ (上の主張の文)
claim: clm-cheddar-yeast-adjunct-single-bitter / type: processing / 更新: 2026-10-22

発酵増える食品

条件: ナイシンZ産生株(Lactococcus lactis subsp. lactis biovar diacetylactis UL719)をスターターに組み込んだCheddar、6か月熟成。

ナイシンZ産生株を組み込んだCheddarチーズは、対照チーズに比べ官能評価で酸味・苦味が強まった。

チーズの苦味の発生を左右する要因: ナイシン Z 産生株(Lactococcus lactis subsp. lactis biovar diacetylactis UL719)をスターターに組み込んだ Cheddar チーズの苦味について、要旨は対照より強まったと書くが、本文の官能の結果はナイシンを入れない同じスターターのチーズより弱いと書き、食い違う。同株はチーズ水抽出物中のペプチドの生成を増やした。予備的

範囲: Cheddarチーズ、6か月熟成。官能評価は6か月時点で実施。

注記: 2026-10-21(全文での再評価 第 2 束): 全文で読むと、要旨(苦味が強まった)と本文の官能の結果(ナイシンなしより弱い)で向きが逆だった。どちらとも決められないので supported から preliminary に下げた。

要旨は、ナイシン Z を作る株 UL719 を入れた Cheddar は対照より酸味と苦味が強まったと書く。一方、本文の官能の結果は、この株を入れたチーズの苦味は、ナイシンを入れない同じスターターのチーズより弱いと書き、要旨と向きが食い違う。6 か月の 214 nm の疎水性ペプチドのピーク面積(×10^7、官能値ではない)は ISN 8.21・NF 8.80・COM 8.04 で有意差がない。
限界: 要旨と本文の向きの食い違いは原典の中では解けない(要旨の比べた相手が何かは確定できない)。官能は 6 か月の時点だけ。
データを表示ingredient-cheese —develops_bitterness_depending_on→ (上の主張の文)
claim: clm-cheddar-nisin-starter-bitterness / type: sensory / 更新: 2026-09-01

言い伝え(未検証)

苦味が動いたかどうかを実測した資料が、この研究所の台帳にまだ無い方法です。効くとも効かないとも言いません。言い伝えの一部は、仮説として仮説採集箱にも置いています。

発酵未検証食品

条件: PrtP陽性株とPrtP陰性株のLactococcus lactisスターターを意図的に選択・組み合わせる方策(著者らが今後の検証課題として提案するのみで、本論文では実験的に検証されていない)。

PrtP陽性株と陰性株のスターターを組み合わせることが高タンパク乳製品の苦味を抑える手段になりうると提案されているが、まだ検証されていない。狙う相手: 苦味ペプチド

関連

チーズ(図鑑) / 主題ハブ 発酵と苦味ペプチド / 主題ハブ チーズの熟成とスターター/ 下処理帳の入口 / 仮説採集箱(3)